マルジャン・サトラピ,ヴァンサン・パロノー監督作「チキンとプラム ~あるバイオリン弾き、最後の夢~」("Poulet aux prunes" : 2011)[BD]

愛用のバイオリンを失い、絶望した音楽家が、自ら死を決意してからの8日間を描くコメディ・ドラマ作品。

語り部はあるバイオリニストについて語り始める。1958年秋のテヘラン、当代一の高名なバイオリニストであるナセル・アリは、数学教師の妻ファランギースと、娘リサ、息子キュロスの4人で暮らしていた。ナセル・アリとファランギースの関係は冷え込み、顔を合わせれば口論が絶えなかった。

ある日、ナセル・アリは愛用のバイオリンを壊されてしまい、それに代わる新たなバイオリンを諸所へ探し求める。しかし、いかに名器と謳われたバイオリンもナセル・アリの希望を満たすには至らず、絶望した彼は自殺を決意する。数ある方法の中で、苦痛を嫌った彼は、横になってただ死を待つ事を選択する。

ナセル・アリが部屋に引き篭もって2日目、心配したファランギースはナセル・アリの弟アブディに連絡する。ナセル・アリの元を訪れたアブディはその無責任な行動を責め、翻意を促す。しかし、アブディは共産主義者だった過去に、家族に迷惑をかけてきた事を責められ、返す言葉が無くなってしまう。ナセル・アリは自分の死後、残された家族の事をアブディに託し、アブディは了承する。ナセル・アリはリリやキュロスの事に思いを馳せながら、死が訪れるのを待つ。

4日目、ファランギースはなんとかナセル・アリを翻意させ、愛を取り戻そうとチキンのプラム煮を作る。ナセル・アリは食事時だけは気前が良かったのである。夫婦の関係は冷え込んでいたが、ファランギースはナセル・アリを心の底から愛していた。ファランギースは幼い頃からナセル・アリに好意を抱き続け、数学教師になり身を立ててからも、30歳まで縁談を断り続けてきたのだった。ファランギースはナセル・アリの母親パルヴィーンに甚く気に入られていたので、それが縁でナセル・アリが41歳の時、結婚する運びとなった。しかし、当のナセル・アリはファランギースを愛しておらず、結婚後も愛が芽生える事は無かった。ある日、働かないナセル・アリをファランギースが責め立てた事で口論となり、衝動に駆られたファランギースは、彼の愛用のバイオリンを壊してしまう。それ故、ナセル・アリがファランギースを許す事はありえず、ただ彼の愛を欲する彼女を拒絶する。

ナセル・アリの心には、常に忘れられぬ女がいた。ナセル・アリは21歳の時に、シーラーズの高名な音楽家の元へ師事していた。師はナセル・アリの技術こそ認めたものの、音に心が籠っていない事を嘆き、突き放す。ナセル・アリが途方に暮れていた時に、町で出会ったのが時計店の娘イラーヌだった。イラーヌに心を奪われたナセル・アリは、彼女に会うために足繁く時計店に通う。程なくして、ナセル・アリはイラーヌと親しくなっていく。

5日目になると、ナセル・アリは死が近い事を感じる様になった。6日目、ナセル・アリの前に異形の姿をした者が姿を表す。それは母が生前に病床で語っていた、死を司る天使アズラエルだった。ここで語り部がアズラエルである事が判る。アズラエルはナセル・アリの具体的な死期は述べず、死が決まっている事だけを告げる。7日目、ナセル・アリの症状は重篤化し、ファランギースとアブディは医者を呼ぶ。

ナセル・アリは死の淵にあって、イラーヌと過ごした日々を回想していた。ナセル・アリはイラーヌに愛を打ち明け、結婚をするつもりだったが、イラーヌの父親に反対され、2人は別離を余儀なくされてしまう。ナセル・アリのイラーヌへの愛は、バイオリンで紡ぎだす音に昇華し、師に高く評価される。ナセル・アリは師から、彼の師より受け継いだとされるバイオリンを譲り受ける。ナセル・アリはそのバイオリンを携え、世界を旅して周り、当代一のバイオリニストの名声を得たのだった。その後、イラーヌは父の意向で別の男と結婚し、ナセル・アリもまたファランギースと結婚をした。2人は離れ離れになっても、決して互いを忘れる事は無かった。そのバイオリンはナセル・アリにとって、喪ったイラーヌそのものだった。ファランギースが壊したのは、まさにそのバイオリンだったのである。バイオリンを喪った直後、ナセル・アリはテヘランの街角でイラーヌとすれ違っていた。呼びかけるナセル・アリに、イラーヌは知らぬフリをする。ナセル・アリの絶望は計り知れない。本心ではイラーヌも応えたかったが、過ぎ去った時間の長さにひとり涙する。

8日目、息を引き取ったナセル・アリの埋葬がしめやかに行われる。その様子を離れた場所から涙ながらに見守るイラーヌの姿があった。

 

終始、アズラエルによるメタ視点で語られていく設定になっていて、ナセル・アリが死ぬ事も序盤の方で早々に明かされる。物語は、ナセル・アリの死に至るまでの経緯や、彼をとりまく登場人物の過去や将来の姿など、コミカルなエピソード群を、巧妙に時系列を入れ替えながら進行していく。実時間では、ナセル・アリはほとんどベッドで寝たきりで、そこへアズラエルによる回想がザッピングされる感じである。バイオリンの壊れた理由や、死を決意する程に執着する理由が徐々に明らかになり、満を持してアズラエルが登場。終盤はナセル・アリ一世一代の恋愛の末路が回想され、実時間に結実していく。コメディライクで毒が効いており、なかなかぶっ飛んだ話ではあるが、色とりどりに趣向を凝らした演出や、小気味良いテンポ感が愉快で良かった。

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